出生率の低下は日本の
男女間賃金格差縮小を説明するか?

吉田

国立社会保障・人口問題研究所

2025-06-08

問題設定

男女間賃金格差のトレンド

  • 日本の男女間賃金格差は、この30年間ゆるやかに改善
    • 依然としてOECD諸国で4番目に大きい水準(2021年)ではあるものの


  • なぜ?

理由1:女性の大学進学率上昇

  • 1970s-80s出生コーホートにおける、女性の大学進学率の顕著な上昇
    • 2023年度:男60.7%、女54.5%


  • 労働市場における男女間の人的資本差を縮小

理由2:結婚・出産前後における女性の就業継続率上昇

  • 結婚・出産後の就業継続率の着実な増加
    • 正規雇用継続について、学歴差の拡大を伴いながら(Mugiyama 2024)


  • 男女間賃金格差の縮小 = ジェンダー不平等の改善 ?

出生率の低下がもたらす男女間賃金格差の縮小?


  • したがって、Penalty の改善だけではなく、子どもをもつというイベントを経験する人の減少によっても、マクロレベルの男女間賃金格差は改善するはず
    • このとき、マクロな男女間賃金格差の縮小傾向のすべてを、ジェンダー不平等の改善の帰結として解釈することは適切ではない

配偶関係別人口構成/コーホート出生率の変化

  • 各年齢層における未婚者割合はこの期間に男女とも増加


  • 女性のコーホート合計特殊出生率も同様に低下

米国での検証

  • Killewald and Cricco (2024) による米国での検証
    • 1980年から2018年にかけての出生率低下が、この期間の男女間賃金格差の縮小をグロスで24%、さまざまな個人特性や仕事特性を考慮しても8%説明


  • 日本では?

目的


  • 日本社会における近年の男女間賃金格差縮小に対して、この期間の有子人口割合の低下がどの程度寄与していたのかを明らかにする


  • 本来は、男女間賃金格差と同じサンプルについて解きたい課題
    • しかし賃金構造基本統計調査の調査票では、配偶関係や子どもの有無を尋ねていない
    • そこで今回は、複数の社会調査を統合したデータの分析によって答える
      • あくまで試算
      • 母集団の分布に合わせた重み付けが次の課題

方法

データ

  • 2000-2018年の社会調査データ2種15回分


  • SSM2005, 2015
    • 1995以前は時間あたり賃金を計算できない
  • JGSS2000, 2001, 2002, 2003, 2005, 2006, 2008, 2010, 2012, 2015, 2016, 2017, 2018
    • JGSS-2009LCSは対象とする年齢幅が限定的なので除く
    • JGSS2017G/2018Gは個人所得を尋ねていない

対象

  • 現在就業していて、個人所得を得ている、被雇用者
    • 無業者、もしくは就業していても個人所得がゼロの人は除く
    • 自営や家族従業者も除く
  • 調査時年齢25〜59歳
    • 学生アルバイトおよび高齢者を除くため
  • 時間あたり賃金上位/下位1%を除く


  • N = 13,973

対象(つづき)

変数

  • アウトカム:時間あたり対数賃金
    • 個人所得(年収)を月当たり労働時間の12倍で割った値の対数値
      • 個人勤労所得とは厳密には異なる
    • 2020年基準消費者物価指数で標準化
  • 説明変数
    • Model1: 子どもの有無・数
    • Model2: + 年齢(2乗項)、配偶関係
    • Model3: + 本人学歴(教育年数)
    • Model4: + 現職勤続年数
    • Model5: + 雇用形態、職業(8分類)、役職、企業規模、労働時間

手法

  • Kröger and Hartmann (2021) の A threefold extension of WL decomposition
    • Interventionist approach

  • 今回は2000-04年(s)と2005-2019年(t)の比較

  • 子ども数による \(\Delta\)E に着目

    • 子ども数が賃金に与える男女別の効果を2000-04年と同水準とすると、2015-19年までの男女間賃金格差のうちどの程度が、この期間の子ども数の変化で説明できるか?

結果

分布の変化:配偶関係

分布の変化:子ども数

分布の変化:賃金差

要因分解の結果

  • 子どもの数の変化が、男女間賃金格差の縮小に、一定程度寄与
    • グロスで22.8% (Model 1)
    • 年齢、配偶関係、学歴を考慮すると9.1% (Model 3)
    • さらに現職の情報も考慮すると1.7% (Model 5)

解釈


日本社会における近年の男女間賃金格差縮小に対して、この期間の有子人口割合の低下がどの程度寄与していたのかを明らかにする


  • 全体で約23%寄与していた可能性
    • 近年の男女間賃金格差縮小を、すべて「ジェンダー不平等の改善」の帰結として位置づけることに留保
  • 配偶関係と年齢を考慮することで、寄与はおよそ半分に(Model2: 11.8%)
    • 米国との大きな違い
    • 日本における (1)結婚と出生の結びつきの強さ、(2)結婚に伴う男女間賃金格差の拡大を反映か

限界と今後の展開


  • 就業へのセレクション
    • 子どもの有無・数が就業選択に与える効果とその男女差が、時代とともに変化していた可能性
      • 第1子就業継続率の上昇(p. 5)を踏まえるとplausible
        • ただし男女間賃金格差に与える影響の向きは両方考えられるが
    • Killewald and Cricco (2024), p. 16 では、就業へのセレクションを分析開始時点(1980年)の水準に固定しても、ほとんど結果が変わらないことを確認
  • 母集団における分布への接近
    • ウェイトの利用
    • 公的統計の個票データを用いた再分析
      • 就業構造基本調査など

謝辞

- 本発表はJSPS科研費 JP22K20208, JP24K16528の研究成果である。 - 二次分析にあたり、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターSSJデータアーカイブから「日本版General Social Surveys<JGSS-2000>」「日本版General Social Surveys<JGSS-2001>」「日本版General Social Surveys<JGSS-2002>」「日本版General Social Surveys<JGSS-2003>」「日本版General Social Surveys<JGSS-2005>」(東京大学社会科学研究所)「2005年SSM日本調査,2005」「2015年SSM日本調査,2015」(2015SSM調査管理委員会)の個票データの提供を受けた。 - 日本版General Social Surveys(JGSS)は、大阪商業大学JGSS研究センター(文部科学大臣認定日本版総合的社会調査共同研究拠点)が、大阪商業大学の支援を得て実施している研究プロジェクトである。JGSS-2000~2008は学術フロンティア推進拠点、JGSS-2010~2012は共同研究拠点の推進事業、JGSS-2015はJSPS科研費JP26245060、JP15H03485、JP24243057、大阪商業大学アミューズメント産業研究所、日本経済研究センター研究奨励金2014年度(岩井紀子)、労働問題に関する調査研究助成金2015年度(岩井八郎ほか)、JGSS-2017/2018、JGSS-2017G/2018Gは「特色ある共同研究拠点の整備の推進事業機能強化支援」、JGSS-2017/2018はJSPS科研費JP17H01007の助成を受けた。JGSS-2000~2005は東京大学社会科学研究所と共同で、JGSS-2006~2012は東京大学社会科学研究所の協力を得て、JGSS-2017/2018、JGSS-2017G/2018Gは京都大学大学院教育学研究科教育社会学講座の協力を得て実施した。データの整備は、JSPS人文学・社会科学データインフラストラクチャー構築推進事業JPJS00218077184の支援を得た。二次分析に当たり、JGSSデータダウンロードシステムで個票データの提供を受けた。

文献

Budig, Michelle J., and Paula England. 2001. “The Wage Penalty for Motherhood.” American Sociological Review 66 (2): 204–25. https://doi.org/10.2307/2657415.
Cha, Youngjoo, Kim A. Weeden, and Landon Schnabel. 2023. “Is the Gender Wage Gap Really a Family Wage Gap in Disguise?” American Sociological Review 88 (6): 972–1001. https://doi.org/10.1177/00031224231212464.
England, Paula, Jonathan Bearak, Michelle J. Budig, and Melissa J. Hodges. 2016. “Do Highly Paid, Highly Skilled Women Experience the Largest Motherhood Penalty?” American Sociological Review 81 (6): 1161–89. https://doi.org/10.1177/0003122416673598.
Killewald, Alexandra, and Nino José Cricco. 2024. “Can Fertility Decline Help Explain Gender Pay Convergence?” Social Forces, November, soae153. https://doi.org/10.1093/sf/soae153.
Kröger, Hannes, and Jörg Hartmann. 2021. “Extending the KitagawaOaxacaBlinder Decomposition Approach to Panel Data.” The Stata Journal: Promoting Communications on Statistics and Stata 21 (2): 360–410. https://doi.org/10.1177/1536867X211025800.
Mugiyama, Ryota. 2024. “Cohort Change in the Educational Gradient in Women’s Employment Around Childbirth in Japan.” Research in Social Stratification and Mobility 89 (February): 100885. https://doi.org/10.1016/j.rssm.2023.100885.
竹内麻貴. 2018. 現代日本におけるMotherhood Penaltyの検証.” フォーラム現代社会学 17: 93–107.